天ぷら火災について 長崎県消防学校の講師をしていた時、 天ぷら鍋のコンロの火の不始末による火災を火災保険の扱いとして これを単純に過失による事故と考えてよいのであろうか? 重過失ではないのか? と現役の消防士から質問があった。 やはり日本の文化と教育の中心地である長崎は消防士も質が高い。
保険会社が重過失と判断すると実際に付保している自宅建物が保険金を払えない。 更に、類焼先への失火責任法が適用されず、不法行為に該当し、 類焼先への損害賠償が発生するのではないかとの質問もあった。 なんて真面目な消防士達なんだ… 講師をしていて涙が出そうなくらいの質問であった。
ここで皆様御存知であろうがおさらい
実際に重過失と認定された事案を2つ記述する。
(1)東京地判昭和56.5.29(判時1026号P.109) レストランの調理台のガスコンロでカラ揚げを調理している途中で、コンロを見通すことのできない場所で料理の下準備をしていたところ、カラ揚げの油に引火して火災になった。
(2) 東京地判昭和56.3.29(判時1059号P.108) 夕食の支度のため、点火中のガスコンロに油の入った鍋をかけたまま来客 の応待をしていたところ、油に引火し火災となった。
この2件の具体的な背景や事故状況、周辺事情はわからないが、 「天ぷら火災」で過失では無く、重過失と認定されている。
上述の様に火災保険は重過失では支払い不可能である。 ここで改めて重過失とは何かについて論じる。
鑑定人諸氏は御存知の判例
最判 昭32.7.9 「ここにいう重過失とは、通常人に要求される程度の担当な注意をしないでも、わずかの注意さえすればたやすく違法有害な結果を予見する事ができた場合であるのに漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するを相当する」
判例の通り、一般に重過失とは著しく注意を欠いた場合を指す。
しかし、重過失と軽過失の間には、故意と過失との間にある様な差異は認める事ができない。
判例は殆んど故意(わざと)に近い著しい注意の欠如を基準としていると考える。
小生の知る限り、住宅物件の天ぷら火災に関しては保険会社は 火災保険で支払いをしているし、 免責条項では「故意または重過失」のみ払わないとあるから、やはり単なる過失と判断しているのであろう。
そこには約款作成者不利の原則に基づき、被保険者有利の解釈で 保険会社は保険金を支払っているのが実情である。
店舗の調理中の火災は単純に過失にするのは別の話である。
さて、皆様 鑑定やいかに。
令和7年4月25日
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